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「子どもだましもいいところだ」 と、こどもが言う。
「では、証拠があればいいんですね」 と、左手に座った者が言う。
「起きて待つ、まだ読書も済んでいない」
そう言ってこどもは、パタリ、パタリと、何語か見当も付かない文字で埋められた本を事も無げにめくっている。
………
これがいちじかんまえのこと。
今は、くう…、くう…、とかすかな寝息をたてて本に体を預けている。
無理もない、ここ数ヶ月どれだけ人や物を動かし、知識の吸収に時間を割いてきたか。
戻ってきても、やはり彼は彼なのだ。そう、実感させられた。
以前と違うのは僕の方。
薄皮を一枚剥いできた。
距離は以前と変わらないのに、以前より伝えたいことを伝えられている気がする。
「寒いですから」
そう言って、彼の研究室に無理やりカーペットと電気炬燵を置いたのが先月。
石畳には似合わないなあ、と思ったし、実際彼も見た目の不調和のせいか、初めて見るものへの警戒か、入るのを渋っていた。
けれど、すでに心は奪われてしまったらしい。
さすがに物事を行うときは興味も示さないが、本を持ち込んだら最後。すべて読み終わるまで立ち上がろうともしない。
猫背に拍車をかけたか、と妙な心配までしてしまうほどだ。
それでも睡眠は布団にもぐった方が効率がいいと知り(一度そのまま寝入ってしまい、翌朝痛い目にあった)ここで眠ることはなかったのだが。
と、対面に派手な格好をした者が入り込んでくる。
足を差し入れ、身を一震わせし、それから息をつく。
「やはり、これはいいものだな…」
低くかすれた声は外見と異なり優しく響く。
彼の知識や経験の中にもなかったらしく、最初見た時はこどもと同じ態度を示した。
「そんな格好までさせちゃってすいません」
「たまにはいいだろう…僕がじゃないぞ、メシアにとってだ」
わかってますって、と苦笑し、依頼したものを持ってきたか訊ねる。
「用意した、メシアにとって必要かどうかわからないが」
「不要でも、いいんですよ。いずれ使えなくなる物ですし…それより君、いや『貴方』が来ることが最大の目的ですから」
そうか、と彼は改めて自分の格好を不思議そうに見てから、まあ行事には色々な土地風俗歴史が反映されるものだから…とひとりごちた。
…コトリ 平らな机の上に依頼品が置かれる。
飾り気のない部屋の中、不調度に更に重ねて、なんて飾られた。
それが、いいのだ。
今は、「あしたのまえ」の夜。
「じゃ、証拠を作りましょうか」
眠ってしまうことを見越して、用意していたカメラを取り出し、こどもと彼と依頼品を枠に収める。
はい、ちーず。
ぱし、と乾いた音が思ったより大きく響いて思わず対面の彼と指に手を当てる。
しぃ! しぃーっ!
……… そして、子供の寝息を確かめ、自分達の心臓の音が静まるのを待った。
目で合図をして、ゆっくり炬燵から這い出て彼は去り、部屋には鮮やかな依頼品だけが残される。
それと、こどもとを交互に見やり、このまま眠っているなら布団まで運ばないと、と考えた時、ボン、と部屋の隅が音を立てた。
続けざま、11回。
「まだ12時になってもいなかったんですね」
きっとこの子はいい子なんだろうと、ぼんやり思って、静かな夜にまぶたを下ろした。
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