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春の日差しが背景を埋めていた。ずいぶんのんびりとしゃべる声。
「僕はずいぶんたくさん君たちにもらったねぇ」
声の主以外の景色はあるのかないのか柔らかい光が邪魔してかすんで揺れる。
「海を越えて向こうまで、地中奥深く見えない世界をかけて」
「大きな敵も怖くなかった」
「一人ぼっちの戦いでも胸に手を当てると君たちが浮かんだ」
「この小さな体はいつの間にか君たちで満たされていたんだ」
「僕は君と君たちにたくさんをもらったけど、僕は君たちに何かあげられたかなぁ」
一方的にしゃべる悪魔くんの映像だけが俺の前を通り過ぎる。
このままでは悪魔くんがいなくなってしまう。俺の勘がそう告げている。
『…行、くなよ、悪魔、くん…』
ふりしぼった声はかすれ、頼りなく響く。
この俺様を押さえつけているのはなんだ?黒悪魔か?違う気がするけれど正体に心当たりはなくて。
そうして映像じみた悪魔くんは言う。
「やっぱり2世が最後まで残っちゃったか」
名前を呼ばれて少し体が自由になる。
「僕を殴りつけたのは君くらいだったもんねぇ」
「けどね、君を連れてはいけないんだ」
むかつくことばかり言う悪魔くんをもう一度殴りつけてやろうと思ってこぶしを握る。けれど、体がここにないみたいに手を握る感覚は感じられなくて。
『まさか、悪魔くんが、俺たちに何かしたのか?』
ニコニコと笑いながら、違うよ~、と返され少しホッとした。疑ってしまった気持がチクリと胸を刺す。
そう思いを巡らせたのも束の間、
「じゃあ、僕いくね」
「そうだね、最後まで僕を呼んでくれた君にはこれをあげる」
両手にやさしく押し付けられた物を見る、ああよかったちゃんと俺の手付いてるじゃないか。
『…ドーナツ?て言うか、今なんつった、最後?何だそれ、意味わっかんねーよ!』
のぞいた穴からはうすぼんやりした春の日差しではなく、どこまでも歩いて行けるようなきれいな青空が見えた。
そして、輪の外にいるはずの悪魔くんの姿は消えていた。気配ひとつなく、そこには元から何もなかったみたいに。
代わりと言わんばかりに戻ってきた視界には、どこまでも続く荒野と青空が広がっていた。
img/ 埋れ木悪魔くん
song/メキシコ/中村一義
「ごめんね」
一つきりの唇はメロディを奏でるためのものでした。
ならばと、流す涙をいただいてみても、なめとる先から鉄錆びた味の鉛玉に変わるのでちっともおいしくありません。
それでは一つきりの心臓をいただこうと赤いシャツをはぐるのですが、青空があふれだすばかりで、少年は悪魔にあげるものがなかったのです。
「ごめんね」
そう言って少年はひとつきりのドーナツを悪魔にあげました。
なれの果てでキンキラ輝く少年は走りだします。
「泣いている声がするんだよ」
片手には笛を反対の手にはマイクを持って。
轟々うなる駆け足はあっという間に悪魔を置き去りにします。
悪魔は泣きだしていました。自分にできることがこんなにもないなんて、そう思いました。
img/ 埋れ木悪魔くん
song/RAD WIMPS/ オーダーメイド、One man live
ドーナツを穴のところまでかじって、残ったカステラ生地の部分はまだドーナツって呼ばれる。
穴はどこへ。
ドーナツにあいてた穴はドーナツの外とくっついて、そこにあるのに(多分ドーナツの側に)無いって。
ドーナツ分けようか半分きれいにまっぷたつ。
半月みたいなUが2つ。
img/ 悪魔くん
一日が一枚の紙に記録され千枚たまったミル・フィーユ
ページの中には穴のあいた子どもがいるんだドーナツ
何か起こって嬉しいことも悲しいことも千枚(万枚?)端に糊を付けて厚紙ではさんでタイトルを付けて
喜怒哀楽それ以外もたんとたんと詰まっているんです何でもないことね君の名前がタイトルひとつの命の話
初めから終わりまでそれ一冊の本それでも一冊の本になるんだ
カバーだけの薄い本から今も時々厚くなる最長ページの本まで
それで?そうそれをね
踏みつけて
たくさんの本の上で今日また新しい一枚ができたよ
はさんで増えて行く
同じ名前の本があったね君のうちにもあるかも(ないかも?)
「悪魔くん」はこれで何冊目かな見るたびに登場人物が変わる何冊目だろうね
タイトルを付けたのに
穴のあいた子どもが生き返るんだ
終わらないに決まっている
img/ 悪魔くん
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