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小さな手を引いてくれた
闇の中の君はだれだっけ?
足の裏の汗が木張りの床に吸いついて
長い長い暗い廊下
歩くたびの音が鳴るまま風の吹かない庭に消えていく
昼はなんでもないんだよ
その景色は知ってるはずなんだ
色鮮やかな緑葉
石の裏影で動く蟻やだんごむし
見上げる木漏れ日
縁側に吹き込む涼しい風
おやつは甘い匂いの西瓜
昼寝をしたら腹のところに薄布がかけられてて
珍しい、かあちゃん優しいや
寝転んだまま木張りの廊下の冷たさに頬を寄せ
落ちてくる蝉たちのうるさいほどの合唱をぼんやりと聞いて
いつの間にか夕暮れが過ぎ
薄紫、赤紫、紫紺、宵闇、ああ蛍だ、
いただきます、ごちそうさま、しゅくだいはまたあした
便所は朝まで行かなくても平気、
おやすみなさい、
で、
べたり張り付く黒、暗闇
息を潜めて歩く
いつものなんでもない廊下
耳には葉のこすれる音と
自分の足が踏む軋み音だけ
それ以外、何もいない
、よな?
僕はもう子どもじゃないんだぞ
母ちゃんとも違う部屋で寝れるんだ
夜中に目が覚めたのだって
寝小便をしないで起きれたって証拠
ここでぶちまけちまったら
隣で寝ている妹にどんなに笑われるか
怖くなんかないよ
ばあちゃんのキツネの話もおじちゃんの人魂の話も
隣の正吉が言ってた便所の手の話だって
…全部いないんだから!
テレビが言ってた
心霊写真?創り物です
妖怪?絵空事です
祟り?偶然です
科学ですよ、真実ですよ、お化けなんて、いませんよ
怖がってるのは君だけですよ
僕は怖くないんだ、お化けなんていないんだ
ギシギシ
ミシミシ
ギイィ ギイィ
ザワザワ
ザワザワ
ザワザワ
イルヨ
ザワザワ
「怖くないんだ、お化けなんかお化けなんかいないよ」
「いるよ」
心臓が跳ね上がる
急に脇から子どもの声
叫びたいのに声がかすれる、ふりむく
「どろ…ぼう…!」
「ひどいな、違うよ、落し物を探してるだけさ」
「ここは僕の家の庭だぞ」
「僕はお化けだからどこに居たっていいんだよ」
「お化け?嘘だ、見えてるじゃないか」
「じゃあ妖怪」
「妖怪なんて作り話だよ」
「本当言うとね、幽霊族」
「幽霊?死んだわりに顔色がいいじゃないか」
「死人じゃない、幽霊族だ」
「何でもいいよ、泥棒じゃないなら」
泥棒とお化けじゃないならなんでもいいよ
「まあいいけど、ねえ君こそこんな夜中にどこへ行くつもりだったんだい?悪い事?秘密事?」
「違うよ、便所に…」
「怖いんだ」
「怖くない」
「嘘つきは閻魔様が舌を抜くって言ってたなあ」
「怖くない!ちょっとだけしか…」
「からかってゴメン、お詫びに着いてってあげる」
廊下より怖い便所の中、切れた電球が恨めしい
「そこにいるよな」
「いるよ」
「どこにも行かないよな」
「早くしないと行っちゃうよ」
月明かりでうっすら見える白いふち、真ん中はどこに続いてるかわからない闇
そこにめがけて大急ぎ
「行かないよな!」
「いるってば」
落ち着いた声の返事、いるんだ
ズボンとパンツをあげるのがもどかしい
「笑うなよ」
「笑ってないよ」
せいせいして戸を開けると、ちゃんと居た、居てくれた
「さっきは、悪い、ありがとな」
「どうも、ところでさ僕の探し物しらないかい?」
「何を探してるのさ」
「黄色と黒の縞模様、僕の大事なちゃんちゃんこ」
思い当たる
「昼寝のときに」
「知ってるのかい?」
「かあちゃんが掛けてくれたと思ってた」
暗い廊下を二人で行く
真っ暗闇が怖くない
母屋から離れた風呂場の外、洗濯物は残り湯で
今日の分は明日の朝、洗って干すのが夏休みの僕の仕事
「あった」
「あった!」
汗で汚れた服にまぎれて探し物が出てくる
君が宝物のように大事そうに抱きしめる
「良かった、これが見つからないと父さんが怒るんだ」
こんな夜中に一人で出歩くくせに
「お化けより父さんが怖いの?」
「違うよ、父さんは怒った後悲しむから」
「それで探しに、そっか、えらいな」
「なくした僕が悪いんだ」
「怖くなかったの?」
「お化けだからね」
そう言うのは強がりだろう?
「ああ、でもお化けは人間と同じで怖いやつもそうじゃないやつもいるから」
どっちでもいいよ、君は強いな
「僕らのふつうは君らとちがうだけだから」
帰りの母屋への道は暗いけど怖くなかった
月明かりがある
草木も虫も眠っているだけだし
君もいる
隣の部屋にはばあちゃんが
隣の布団には妹が
あとは朝まで眠るだけ
「ありがとう、お化けも出なかったし、うちの便所はもう怖くないよ」
「そうだね、君のうちは悪さをするやつはいないみたいだね」
「君どこの子?見かけないけど、里帰り?だったら明日は昼間においでよ」
「昼間は寝てるんだ、お化けだからね」
「寂しくないの?」
「お化けだって友達くらいいるさ」
ちゃんちゃんこを纏ってくるりと背を向け
下駄の音が砂利を蹴飛ばして行く
その背に手をふる
「ありがとな」
小さな手のひら大きくなって
怖いものは電気が消した
お化けはいるのかわからないままで
あの夜君に会った話は
怪談にさえならないんだ
君に良く似たヒーローは時々TVで見かけるけどね
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