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めだまの子/img鬼太郎(at 地獄流し)


うつろな目がついてくる
子どもが黙ってついてくる


妙な子どもに切符をもらった
蟻ほど細かく頼りない手書きの字がそこ
『地獄行き』?
縁起でもねえいらねえ返すよ 他の奴に渡して遊べ
視線を戻せば子どもがいねえ 真昼に幽霊?化け物か?
ざらり 首筋を寒気が撫で上げる
遅れ、顔を上げ子どもの姿を探す 目の端、薄汚れた縞二色が路地に消え入る
影が遅れてついていく 消える
追いかけてつき返そうか いや
何を恐れることがある 捨てちまえばいい いや
縁起わりいものそこいらに捨てるのも気味がわりい
信心用心握りつぶし尻ポケットの奥底 忘れ物の住処 つまらないものは全部そこ
消えた子どもを追うのをやめ路地に背を向け歩き出す

俺が悪いことしたとか
わかるわけねえよ
俺がアイツを手にかけたなんて
わかるわけねえよ
わけは、ねえよ
おかしいおかしい気になるなあ気にするな さっきから瞼の裏棲みついた子どもの目ついて来る ついて来る
わけがねえ、ねえよ
振り向け何もねえ、ねえはずだ
振り向け
いねえんだろう、どうせ、きっと、いや絶対いやしねえ
さっきの子ども
さっきの子どもはどうやって俺に声をかけた?
どうして俺は足を止めて子どもを見た?
さっきの子どもどんな形だった?まて、まてまてまて思い出せ一つずつ
薄汚れた学童服それよりもっと汚い縞のちゃんちゃんこ
カラコロ 時代を履き違えた下駄が鳴る足元
背は低かった俺の腹辺りに頭があった その高さ
おかっぱよりもう少し長い髪は灰色がかって重苦しげに顔の半分を隠して
かろうじて右目が

右目が らん と光をはなって俺のこと見てた気がするんだ其処だけが

鮮明だその目ひとつだけが
俺が今までに出会った通り過ぎた全ての目のようで
千かその倍かわからねえ数に意味はねえがひとつの目が
睨むでもなく哂うでもなく蔑むでもなく ただ見ている
通り過ぎるものをひたすらにうつす監視機のように
カラン
カラ コロ
耳障りな足音が余計
鳴るから
違うこれは耳鳴りだキィーーーほら下駄の音とは違うじゃないか
歩け歩け振り切れ走れ
何を   汗をかくほど恐れることがある落ち着け振り向けそれができないなら一つ息をつけすぅはぁ
振り向くより恐ろしいことならもうしちまってんだ
薄暗闇 黴の匂いむせる廃屋 がよく似合う俺とアイツ
汚えことやる時だけつるむ 詐欺だの誘拐だの窃盗だの
それが何だ なんだかねえ捨て切れなかったのかねえアイツは 善意?人の心?商売に邪魔なもの
大方女にでも諭されたんだろう 足を洗おう更生しよう通り一遍等きれい事世迷言今ならまだ戻れるよう
今更が過ぎるんだよ 二人一緒に 何でだよ行けよ一人で俺は行かねえよ
アンタの罪も吐いちまう、だ?ああそうかい そこから先は三文芝居
力を込めた指先でアイツの動脈が大人しくなって
俺の腕に立てたアイツの爪が力なくだらりと手ごと剥がれてそれで御終いおさらばだったさ
目は 両の目見開いて憎しみだか悲しみだか恨みだか辛みだか少なくとも人の目のまま俺を見ていたさ 忘れ難い目だったさ
だのによう 今俺の頭の中張り付いて離れねえのは
あの 子どもの

うつろな目がついてくる
足音立てずについてくる

妄想に身をやつし振り向くことも出来ねえ俺は
何か縋るようにポケットの中まさぐり倒す 小銭でもいい鍵でもいい煙草なら最高だ
この恐ろしさを忘れさせてくれる現実のものなら何でもいい 何か何か何かないか
指先に
張り付く
カサリコソ 切符が 
一枚 子どもに貰った 目ひとつうつろにこちらを見つめる
逃げろ
逃げろ逃げろ逃げろ 行け足 歩け足
子どもの歩みじゃ追いつけねえはず、はずさ
アイツはもういねえ アイツがいなくなったことを知る奴もいねえ 誰も追いかけて来るはずがねえ
歩け歩け歩け走れ
悪いこと 事故だったんだ アイツが悪いんだ 俺じゃあねえ 悪いのはアイツ
『本当に?』
途端思い出した
子どもがあの時言ったんだ 俯き人の目に怯え行く俺に

『どうしましたオジさん 顔色が悪いようで』
『なんでもない構わないでくれないか』
『困った人を見たら助けてやるよう父さんに言われてるんです僕』
『子どもに助けてもらえる用事は無い』
『本当に? そんなこと無いですよなんでもすぐ馬鹿にしちゃあいけない僕わりとなんでもできるんです』
『そうか、じゃあ今すぐこの国からいなくなれる程の金をくれよ、飛行機のチケットでもいい』
『お金はあまりないんです 飛行機の分は無いけど遠くに行く切符ならここに』

紙切れ
手書きの
子どものお遊び
指先が辿り着いたポケットの底
遠く ここからアイツが追ってこられない所までの
『地獄行き』
悪い冗談だ あまりにも出来過ぎたそれとも
子どもは 全部見ていたんじゃないだろうか
手の内で失われていく弾力、熱 残った肉塊残された爪痕全て無かったことに出来ないだろうか為らないだろうか
俺の臆病な思いの内まで あの目で
うつろなまなこ こっちを見ていたなあ けれど俺を見ていただろうか果たして子どもはあの片方で


ふと気がつけば辺りは薄闇
どれほど彷徨っていたんだろうあの目に責め立てられるまま疲れることも知らず
あてども無く街を
街をはずれ田舎道を
田舎道も消えただ砂がずうっとずうっと つづく
ここは、
どこだ どこでもいい ただ 安らぐ ここは

子どもが枯れ木の細枝またがり うつろな目こっちを見ている ここは、
『切符に書いて、おいたので』

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