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いつかの願い/img蛙男(松下悪魔くん)

深い緑の影濃くまだ明けぬ夜の中、男が一人。

布を巻きつけただけのような簡素な衣、ぼろぼろで雨風をよけるだけの代物。

塔の上、風の吹きすさぶ。

眼下に広がる森、顔を上げれば満天に星、しかし見つめるのは天と地の稜線、日のいずる方向。

風が吹いてくる。

バタ バタ バタ と、纏う衣も逃げ出しそうな風の中、男は見つめる、ひとり。

にわかに霞む夜の端。

鳥獣草木は待ちきれず息を吐く。

ギュウギュウと膨れ上がる夜の最期。


「陽は昇る、毎日変わらず。そして沈む。

繰り返し、過去が出来る。学ぶべき知識は蓄えられる。

どうして、なら、どうして、


人は争いをやめないのですか」


見つめる先に光が、赤が、森に祝福を。

眼下に広がる全てから音!生命の音、ハーモニー!

それは毎日繰り返されてきたオーケストラ。


素晴らしい、と打ち震えながら男は悔しさに奥歯を噛みしめる。

どうして、なぜ、と。


男は塔を訪れた最後の一人だった。

故に、最初に目覚める役割を担う。

争いの世を嘆く修験者が、それぞれに力を蓄え眠る地で。

呼び覚ますための方法、知りうる限りの知識を伝えるために。


「メシア」


膨大な知識を手に入れても成せなかったことを成すために、男は未来と言うものを信じる事にした。


「予言ではなく賭けでもなく、あなたに会えると、共に生き、共に成すと」


それは予感。


「待っています、待っています、待っています、会いましょう」


昇る陽を男は身じろぎもせず見つめ返す。

オーケストラはなおも大きくなる。

明ける陽の方から一段と強い風。

長い髪が梳かれる。

「それでは」

噛みしめた口の端を少しゆるめ、大きく開けた目をゆっくり惜しむように閉じ、

風に男の衣が剥ぎ取られる。


けれど後には影も形も掻き消え、森も動物達もざわめきを残すことなく、何事も無かったように太陽を浴びていた。

森の中で、ぐぶう、と沼の主が一声鳴いたが、それも変わらぬ森の日常だった。

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