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まだロクに歩けもしない子が
書生のように生意気な口をきく
私にはそれが大層誇らしかった
どんな大人になるんだろうね
敗戦と高度経済成長
汚さだけでなく
正義感を持って
この国を統べ道を開く
そんな勇士になるんだろうね
そう思っていた
ある日
暗い部屋で明々とブラウン管
あの子はそれを
ジッと見ている
以前せがまれテレビ局から直接借りてきた
今まで記録された
各国の映像集
静かに部屋に入り
後ろからそっと一緒に見る
幼子が見るには少々分かりにくいものだろうに
『どこが面白いんだい?』
そう言って 幼子の返事を待つ
映像はダラダラ流れ続ける(時間を無駄にしたかな)
と その時
画面の中に 二人の男
閑散とした広場
片方がもう一方の頭を指す
息子は同じ動作をブラウン管に
向け 顔をそらす
ガタアァアア ァ ン
ゴト リ
音の情報はなく
頭を指された方が
崩れ落ちる
(糸の切れた木偶人形)
(それは確かに一瞬前まで人であったというのに)
どこの国だか分からないが
それは真実にあった
処刑のシーン
(あまりにもあっさりと)
この子は
(胸を痛めていたのか)
この子が
(撃ち殺したようにも見え)
わたしが
(見ないように暮らしてきた日々を凍りつかせ)
もうブラウン管には
別の映像が バラバラと目的もなく
流れ続け
この子はそんなぞんざいな編集の中から
このシーンの位置を(きっとたいした回数見ることもなく)
確実に記憶し
理解し
見つめ
目を伏せ たのだろう
私に言葉を使わず語る
わかるだろう?
人は人を
それ は
自分の富のため幾人も蹴落としてきた
私の原罪を見せ付けられた ようにも思え
存在を否定された ようにも思え
『お父さん』
息子は尋ねるのではなく言い切る
『神様は無能ですよ』
(ああ、今、現時点で時代の寵児とも言われる私は)
(息子の 指一本に ねじ伏せられている)
「そんな残酷なもの子どもの見るものじゃあないよ」
そういって電源を切り
部屋から逃げ出るしか できなかった
この距離ではだめだ
この距離では愛せない
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