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拝啓
いつも
コンニチハ
こんばんは、
「何を書いとるんじゃ?」
「え、と、手紙です」
「ほほう、珍しいのう」
…
こんばんは、僕は
こんばんは、突然だけど
こんばんは、突然手紙なんて出して
「あら、何書いてんの」
「別に…、手紙だよ」
「へえ~、いつももらうばっかりなのに」
「うるさいなあ、気が散るから帰ってよ」
「何よォ、気取っちゃって!」
こんばんは、僕は
こんばんは、突然だけど
こんばんは、突然手紙なんて出して
…
こんばんは、ユメコちゃん。
僕は前から君に言いたかったことがあります。
顔を見ながらだと言えなくなりそうなので、手紙を書いてます。
「…ふう…」
「な~に書いてんの、鬼太ちゃん」
「!!~…邪魔するなよ、ねずみ男!」
「か~!やだね~、ガキのくせに色気づいちゃって」
「な、何のことだよ!早く帰れよ!」
「はい、はい。大人はもっとスマートに事を運ぶのよ、無駄な争いからは退散退散」
「うるせえ!早くあっち行け!」
こんばんは、ユメコちゃん。
僕は前から君に言いたかったことがあります。
顔を見ながらだと言えなくなりそうなので、手紙を書いてます。
そういえば人間の家に手紙を届けるときって切手がいるんだよね。今度森を出るとき買い忘れないよう
…
こんばんは、ユメコちゃん。
僕は前から君に言いたかったことがあります。
顔を見ながらだと言えなくなりそうなので、手紙を書いてます。
「何を書いてもうまく伝わらないんじゃないかなあ…でも、とても」
僕は、よく君に会えるけど、
「こんな手紙まで書いて、僕は何を何て言えば」
伝えたいことは、
「怖いものがあるなんて」
直接言えば良いんだろうけれど、
「読んでくれないかもしれない」
もしもこれを君が読んで、
「伝えなきゃいいのかな」
嫌な気持ちになったとしても(そうさせたなら謝るけれど)、
「でも」
僕は、もっと
「君に」
会いたい。
…
伝えたいことがあるんだ。
時間かかっちゃったんだ(途中邪魔が入ってね)。
書き直しても書き直しても書き取れないんだ。
けど、届けようと思ったんだ。
君の家のポストの前まで行って、何度も帰ったよ。
男らしくないのか、男らしくないことをするのをやめようとしてるのか。
わからなくなっちゃったから、君に直接渡すことにしたんだ。
森を抜け、川を渡り、山を越え、君の町、君の家、
月が照らす、
君の窓、
(リー、コロコロ)、こおろぎが、
(リー、コロコロ)、つむぐつむぐ夏の夜の調べ、
(リー、コロコロ)、終わらなければ良いのに、終わらなければ、
(リー、コロコロ)、僕の胸が跳ね上がることも、
(リー、コロコロ)、
(リー、コロコロ)、
(リー、コロコロ)、
( )、ないのに。
大丈夫、うん、大丈夫。
届けようと思ったんだ。
届けたい気持ちがあるんだ。
だから夜の窓をたたくよ。
眠る君の窓をたたくよ。
届いてほしい気持ちを言葉で包んで、
読んで、くれるかな。
なめらかに風が僕の足を撫でていく、湿気で鈍く光る夏の星空。
高いビルはなく、けれど大木もなく、電柱の上から見る夜の町は、
月明かりのせいでてらてら光る屋根たちが凪いだ海の水面のよう。
今は、ここは、僕の世界だ、けれど、足元にある窓の向こうへ、
向こう、
向こうへは、
向こうには、
もう、君はいないんだ。
時間かかっちゃたんだ、
君に届けたい言葉が、気持ちがあったことに、
気がつくのに。
言葉にしたら恥ずかしくなっちゃったんだ、
けれど伝えたくて、
「あいしてます すきにしてよ」
君に、
「会いに行くよ」
…
風に乗って僕の言葉がいつか
君と繋がっていた夜の窓に届きますように。
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